
英語入試改革の影響をうけて、中学校受験にも「英語」が導入されるようになりました。
今年2019年、首都圏の中学校で英語を導入したのは、125校。
中学受験者も、昨年と比較して45000人以上も増えています。
今回は、変わりゆく「中学受験」にスポットライトをあて、英語が今後どのように扱われるのかについて、考えていきたいと思います。
そして、難関大学をめざす受験生を指導してきた英語講師として、保護者のみなさんにぜひ気をつけていただきたいポイントもお話します。
この記事は、このような方におススメです。
■2019年の英語入試の傾向を知りたい方
■中学受験のために英語を学ばせようか迷っている方
ぜひ、参考にされてください。
中学受験の英語入試は「2種類」
中学受験における英語入試には、2パターンあります。
1つ目は、海外在住経験者を対象とする「帰国生向け」の入試。2つ目は、既定の海外経験がない日本在住者で、かつ、高い英語能力をもつ受験者向けの「英語選択入試」です。
◆帰国生向けの入試
昔の表現でいうと、「帰国子女」向けの入試です。現在は、男女平等の観点から「帰国生」や「国際生」という言葉が用いられています。
帰国生向けの入試は、学校によって異なります。
「英語+面接」の1科目パターン、「国語または算数+英語」の2科目パターン、「国語・算数・英語」の3科目型にするパターン。英検などの検定試験で、ある一定以上の級を取得していれば優遇措置をとる学校もあります。
その他にも、既定の条件をクリアすることを条件に、一般試験の総合点に加点をする制度を採用する中学校(東京都私立豊島岡女子学園など)、一般試験と受験科目は同じであるものの、帰国生であることを条件に帰国生独自の合格基準を設け、数名の入学を承諾している中学校(東京都私立早稲田実業中学校)などもあります。
◆一般受験者向け「英語選択入試」
海外経験などがない場合や、海外経験はあるけれど帰国生入試の基準に満たない場合、または帰国生入試に不合格だった場合などは、一般受験者枠で合格をめざすことになります。
近年になって、増えてきているのが「英語選択入試」です。
従来は「国語・算数・理科・社会(+α)」の4科目受験が主流でしたが、「国語・算数・英語」の3科目受験など、英語を選択肢の1つとして選ぶことができるようになってきています。
2019年の英語導入実績・傾向
首都圏(一都四県)の国立・私立中学校における、英語導入校数の推移をみてみましょう。

2019度の中学入試において、英語を入試科目いれた私立中学校は、首都圏では125校。2018年度より13校増える結果となりました。(私立中124校・国立中1校)
首都圏にある中学校数は約300ですから、首都圏全中学校の4割以上が、英語を入試科目いれている
ことになります。5年前と比較すると、8倍以上にもなっています。
志願者数も、2018年が約1,500だったところ、2019年は約1,800人に増加しています。
英語導入校の「特徴・レベル」
「英語選択入試」を導入する中学校は、2016年までは中堅下位校が中心でした。
しかし、2017年には、千葉県私立中学の難関校(偏差値:66)である市川中学校が導入を開始。「国語・算数・英語(Ⅰ・Ⅱ)」を選択できるようにしました。
(※偏差値:四谷大塚2018年発表値参照)
続いて2019年には、神奈川県にある私立中学の難関校(偏差値:67)慶応湘南藤沢中等部が英語選択入試の導入。
慶応湘南藤沢中等部が導入に踏み切ったことで、「英語選択入試」を導入する中学校が今後ますます増える、というのが、専門家の見立てです。
ちなみに、御三家(麻布・開成・武蔵・桜蔭・雙葉・女子学院)や早稲田実業、慶応中等部は、2019年時点では導入していません。
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「英語選択入試」のレベル
では、英語試験のレベルは、どれほどのものなのでしょうか?
英語試験のレベルは、学校のレベルと、その学校がどのような生徒を欲しがっているか、によって異なります。
学校側が、英語を得意科目選択という位置づけで導入している場合、中1〜中2で習うレベルの場合もあります。クラス分けを目的としている場合は、英語でエッセーを書くなどの高度な英語力が必要な場合もあります。
各中学校のホームページでは、過去の入試情報、入試結果(受験数・合格数など)を閲覧できるところが多くありますので、希望中学校の情報を早い段階でおさえておくことが大切です。
偏差値が65を超える難関校になると、英検2級~準1級のレベルが必要になる場合もあります。
受験者数・合格者数が少ないところをみると、難関校での英語入試は、既定の帰国生枠にはいれなかった受験生や、英語を幼少期から本格的に勉強してきた受験生が対象になっていると考えられます。
たとえば、
☝市川中学校(2018)
国語と算数は一般試験〔4科目選択〕と同じ。英語Ⅰはライティング、英語Ⅱは英検準1級レベルの問題。受験者数は29名(男子17名・女子12名)で、合格者は3名(男子2名・女子1名)。
☝慶應湘南藤沢中等部(2019)
慶応湘南藤沢中等部のホームページでは、リスニングサンプルを聴くことができます。実際に聴いてみたところ、リスニングの最初の問題はゆっくり、次第にスピードが増していく印象です。
ここ1~2年の新しい傾向
ここ1~2年の間に新設された「英語選択入試」をみると、英語の筆記試験を実施せずに、面接やグループワークの形式で「リスニング力・スピーキング力(資質)」を評価する私立中学もでてきています。
これによって、英検やその他の英語試験を受けたことのない、たとえば英会話教室だけで英語を学んできたような小学生も、英語を使った中学受験をする機会が増えていくとが考えられます。
☟慶應中等部の英語の先生もおススメする、自宅でできる英語学習=「英検Jr.」についてはこちらにまとめてあります。
「英語のみ」での中学受験はある?

2018年までは、AO入試などの特別入試を除いて、海外経験のない一般受験者が「英語のみ」で受験できる中学校はありませんでした。
しかし2019年、ついに桐朋女子中学校が「海外経験に関わらず受験できる『英語特化型』の入試(Creative English入試)」を導入。
募集人数枠は10名とすくないですが、英語力は英検3級レベルでOK。英語でコミュニケーションをとろうとうする意欲・姿勢を主にみるため、海外経験がなくても受験することが可能です。
今後、小学校での英語教育をうけて、このように「自発的に英語学習に取り組む姿勢のある生徒」を対象にした英語入試がふえていく可能性が考えられます。
しかし一方で、御三家を含む難関中学校では「英語のみ」の入試は行われていません。
☝難関校の考え方
- 英語以外の「国語・算数・理科・社会」も重要視しているから
- 英語入試では「子供たちが海外経験を通して得た知識や、そこでの努力」を評価しているから
海外経験、というと簡単に聞こえますが、幼くして海外で生活することになった場合、子ども達は英語を勉強したり、その土地に慣れようとしたり、友達を作ったりと、たくさんの努力をしています。
日本で生まれ育っている場合、いくら英語力があるからといっても、それだけで評価対象にはなりません。
英語を一生懸命勉強したという努力は評価に値するものの、日本人としてのアイデンティティーを確立するための「国語」、そして頭の運動ともいえる「算数」が、今後の基礎になるからです。
一般入試で英語選択が可能な場合でも、「国語・算数・英語」の3科目型が中心になっています。
英語が入試科目になるのはいつから?

現在のところ、英語を正式科目として必ず中学受験にいれましょう、といった動きはありません。
中学受験は「国語・算数」の2科目入試と、「国語・算数・理科・社会」の4科目入試が中心です。
ここに英語を正式に入れるとなると、最大5科目を受験するということになります。
11・12歳という年齢を考えると、受験科目の増加はこどもの心身に影響を及ぼします。たとえ英語が必修科目になったとしても、小学校で学習するレベル(=中学1・2年生レベル)をはるかに超えるのは難しいでしょう。
そうなると、あくまでも予想ではありますが、「国語・算数・英語」の3科目入試や、英語選択入試の幅が広がることが考えられます。
全国トップクラスの中学校における英語入試状況

英語選択入試の導入例をみてきましたが、中には、英語選択入試にとどまらず、帰国生入試さへも行っていない学校もあります。
それは、最難関レベルの中学です。
たとえば、開成、灘、桜蔭、筑波大附属駒場などです。
開成中学校のホームページでは、帰国生入試を行わない理由を、「開成での学びが効果的に実を結ぶように、開成では入学試験で帰国生枠を設けていません。」と記しています。
これら最難関の中学校は、中学受験のレベルもさることながら、入学してからもハイレベルなカリキュラムに沿って学習をしていきます。
とくに開成は、多数の東大生を輩出する学校です。幅広い知識を吸収し、様々な角度で物事をとらえることができる生徒を育てる教育を行っているので、基本学力が十分備わっていれば、英語は学校で伸ばせると考えられます。
2020年の英語入試情報

首都圏の私立中学校だけでも、過去5年間で「英語選択入試」の導入数が8倍に増加していることを考えると、2020年度も導入にふみこむ学校が増えてくると考えられます。
とくに、慶應義塾湘南藤沢中等部(SFC)が「英語選択入試」を導入を開始し、サンプルのリスニング音声をホームページで紹介していることは、他の中学校に大きな影響を与えるものと思われます。
中学受験を考える場合は、学年を問わず、気になる中学校の入試情報を適宜確認していくことが重要です。(入試の時期になりましたら、情報をまとめていきたいと思います。)
保護者が気をつけたい「落とし穴」

2020年には小学校で英語が正式科目に、公立中学校・高校でも英語授業は基本「英語」で行われるようになり、英語の必要性がますます唱えられるようになるでしょう。
ここで、東京大学や京都大学をめざす受験生を数多くみてきた指導者として、保護者のみなさんに気をつけていただきたいのは、「英語は言語に過ぎない」ということです。
開成などの最難関中学校が暗示しているように、高い学力をみにつけるのに必要なのは「国語・算数(・理科・社会)」の基礎力。とくに国語は、全ての教科の基礎になります。
最難関大学をめざす受験生の英作文・英文要約などの答案をみていると、合格基準に満たない生徒さんの多くに不足しているのは「言葉の表現」です。英語で書ける・書けないの前に、主張が明確でなかったり、文章に一貫性がなかったりと、人に自分の意見を伝える訓練が十分にできていない方が多くいます。
英語は、言語です。
今の小学生が大学受験をする際に、必ず受けるようになる「英検」「TOEFL」などの試験には、さまざまな評論・人文系や科学関連の文章がでてきます。
これらの英語検定試験で高得点をとるには、小学生や中学生でなまぶ「理科・社会」に興味をもち、幅広い知識をみにつけていることが必要不可欠。そうでなければ、ある程度の英語力があったとしても、基礎力が乏しいがゆえの「壁」に直面し、がんばっているのに成績が伸びない、ということにもなりかねません。
英語選択入試が増えてきた今、英語を得意科目にして中学受験を突破するのも1つの方法ではありますが、英語にこだわり過ぎないように注意したいものです。
また、英語力を維持するには、それなりの努力が必要です。英語と、その他の教科バランスを考え、お子さんをサポートしていきましょう。
私立中学受験をする小学生がしておきたい「英語学習」
2020年からの小学校英語必修化をうけ、習い事で英会話・英語を学習する小学生が増加中。その流れをうけ、英語のクラスを「英語力・英語学習経験」によって分ける中学校も増えてきています。
また、大学受験改革が進み、今後は4技能(話す・読む・聞く・書く)をバランスよく身につけることが必要です。
中学受験を考えている場合、国語・算数・理科・社会の学習で手一杯のはずですから、正直、英語学習に力をいれる必要はありません。
ただ、お子さんが小1~小4であるなら、余力があるうちに「英語耳(=英語を英語で理解するリスニング力)」を育ててあげることをおススメします。
☞英語耳とは?
わが家では、小2の息子が「英検Jr.」に挑戦中。
英検Jr.は完全リスニングのテストで、公式オンライン教材を使うとゲーム感覚でリスニング力を伸ばすことができます。
英語独特のリズム・発音・音のつながりは小学生のうちの身につけるのが効果的なので、ぜひお家で英語のCDをかけたり、英語のDVDを観る機会をつくって欲しいと思います。
☟英検Jr.を実際に受けた感想はこちら
☟英検Jr.と英検を徹底比較はこちら
参考になりますように!